香川県西部に位置し、愛媛県との県境を有する香川県観音寺市。
その観音寺市の中心部から車で約10分、周囲を田んぼに囲まれた静かな土地に川鶴酒造は居を構えている。
この方が川鶴酒造6代目蔵元、川人裕一郎(かわひと ゆういちろう)社長。
普通酒メインの大量生産体勢だった「川鶴」の酒造りに一石を投じ、全国市場に通用する高品質な酒造りを推進する、新生「川鶴」を牽引する人物だ。
取材訪問に訪れた日は、まだ酒造りの準備段階だった。
釜場に置かれた甑(こしき)を眺める店主吾郎。
麹室の奥にはステンレス製の製麹機(せいきくき)が設置されている。
川人裕一郎社長によれば、良い麹を作ってくれる優れモノ、とのこと。
麹室に置かれた大きな机(作業台)に思わず感心。
これは吟醸クラスの麹を造る時に使用する、蓋(ふた)と呼ばれる道具。
多くの酒蔵を訪問してきたが、このような道具類にまで銘柄の焼印が入れられているものは珍しい。
地下貯蔵庫でのワンシーン。
この貯蔵庫の壁はタイル張りになっているのだが、かつてここはタンクの代わりの貯蔵場所として、酒を入れていた「酒のプール」だったそうだ。
全国的にも珍しい「酒プール」。そのエピソードを聞き、感心する店主吾郎。
現在の地下貯蔵庫は、川人社長の思い入れが詰まった様々な酒が静かな眠りについている。
ちなみに戦時中、この地下貯蔵庫は防空壕として開放されたこともあるとのこと。
なんとここには、30年以上も前の歴代鑑評会出品酒(!)が斗ビンのまま保管されている。
川人社長によると、現存する最古のヴィンテージで昭和43酒造年度のものが残されているとのこと。
販売予定は今のところ考えておらず、文字通り値段がつけられない貴重な酒だ。
多くの蔵で見かける放冷機だが、よく見ると見慣れないメーカーのプレートがついており、目を留めた。
これも本州の酒蔵では見かけることが少ない、四国ならではの1枚ではないだろうか。
蔵の裏手を案内していただくと、大きな浄水設備が整えられていることに驚いた。
実は蔵から出た排水は、川を通して国立公園の指定を受けている瀬戸内海に流れ込むため、指導により香川の酒蔵では全てこのような浄水設備が設けられているとのこと。
きれいになった水槽にはメダカも放流されており、元気に泳ぐ姿を目にすることができた。
蔵の周囲に広がる、川鶴こだわりの自社実験田も見学させていただいた。
10月の訪問だったため既に稲刈りが始まっていたのだが、わずかに残っていた稲穂はよく実っており、頭(こうべ)を垂れて収穫の日を待っているかのよう。
この米を見ると、今度の川鶴の新酒が実に楽しみだ。
蔵の裏を流れる財田川にも案内していただいた。
川鶴酒造の創業者、川人 清造氏はこの川に鶴が飛来した夢を見たことから、「川鶴」という銘柄を考案したというエピソードが残されている。
以後、この名前は蔵の代表銘柄として地元香川で広く知られるようになったのだが、創業時から120年以上、川鶴の歴史を側で見守り続けて来た、蔵にとって縁の深い川だ。
恒例のフォーメーションをお願いしての集合写真。
この写真の完成度の高さが、蔵のチームワークを表現するとかしないとか。
川鶴には「川鶴 讃岐くらうでぃ 骨付鳥 一本勝負」という地元グルメに特化した商品が存在する。
「骨付鳥(ほねつきどり)」とは、香川県丸亀市発祥のB級グルメで、塩こしょうとニンニクでした味付けした鳥の骨付きもも肉を焼いたご当地グルメ。
この酒は、その骨付鳥に合わせるための酒として開発された低アルコールの日本酒で、「かがわ県産品コンクール」で最優秀賞を受賞するなど、県内では知る人ぞ知る名物商品だ。
昼食として、川人社長に本場の讃岐うどんを御馳走になった。
香川はうどん屋が本当に多く、川鶴酒造から徒歩5分以内でも2軒のうどん屋さんが営業している。
この店では、まずうどん玉の温度と玉数を伝えると、麺のみが盛られた丼を渡され、セルフで温かいだし、冷たいだしを注ぐというスタイル。
讃岐うどんのだしは「いりこだし」が基本中の基本。
中でもこのお店のだしは、魚の香りが驚くほど豊かで川人社長もお勧めのお店。
ちなみに1玉150円と聞いて驚いたのだが、香川のうどん屋さんはどこもリーズナブルだそうで、逆に県外のうどん屋さんは地元の人から見れば高い、と感じるそうだ。
一通りの取材を終えて、蔵元がセッティングしてくれた懇親会へ場所を移動。
今回は観音寺市内有数の日本料理店にご招待いただいた。
蔵の試飲で店主が絶対に仕入れたいと思わせた、川鶴の秋上がりで乾杯。
イカとシャコ貝の刺身やワタリガニの焼きガニといった、新鮮な海の幸を使った料理が並び、それと併せる川鶴の酒がどれも美味い。
写真はエビと小魚の唐揚げだが、この魚は瀬戸内海地方で「ねぶと」と呼ばれる魚。
サクサクの衣と、ほんのり塩味がついた味わいが1度食べたら病み付き必至。
香川では普通に食卓に上がるメニューだそうで、川人社長も子供の頃から「ねぶと」をよく食べていたそうです。
観音寺の名所、景観と言えば砂浜に書かれた「銭形砂絵」が有名。
1633年、丸亀藩藩主の生駒高俊が領内を巡視することになった折、土地の人々が歓迎の気持ちを現わすため、一夜で白砂に砂絵を作り上げ藩主に捧げたとされている。
ちなみに海の向こうに見える浮かぶのは伊吹島(いぶきじま)。
讃岐うどんに欠かせない「いりこ」の名産地で、「伊吹いりこ」と呼ばれる良質のいりこを生産している。
川人社長に車を出していただき、ライトアップされた銭形砂絵を見せてもらった。
ちなみにこの砂絵は真上から見ると楕円形をしており(縦122メートル、横90メートル)、琴弾公園山頂の展望台から見ると円状に見えるように工夫が施されている。