JR掛川駅を降りて、車で移動すること約15分。
山と田んぼに囲まれた場所に、古い歴史を感じさせる「開運」土井酒造場が居を構える。
桜の木々に囲まれた黒い板壁の酒蔵は、満開の桜の季節が最高に美しい。
「開運」四代目当主、土井清幌社長。
故・波瀬正吉杜氏と二人三脚で、「開運」と現代の静岡吟醸酵母の発展に貢献した。
古い建物が多く残る「開運」の蔵の中は、一歩足を踏み入れると他では見られないような設備がたくさん導入されている。
これは上部のシャワーから、毎分700リットルもの大量の水が流れる特注の洗米機。
浸漬中の米の前で、洗米について説明を聞くワンシーン。
大きな甑が据えられている、開運の釜場。
蒸し上がった米は、写真右上のフレームで甑から持ち上げる。
土井社長が「これも撮っておいて!」と指名した2階の大きな設備。
放冷機のように見えるが、これは「連続浸漬機」と呼ばれるもので、米の吸水率を設定通りに「誤差無く」吸水する、全国でも珍しいものだ。
仕込みシーズン中の麹室特有の、甘い香りが漂う麹室。
「天幕」と呼ばれる設備の中で、破精込み中の麹を見せていただいた。
こちらは蓋(ふた)がズラリと並ぶ、大吟醸をはじめとする高品質酒の麹を造る室。
土井酒造場にはこの他に麹室がもう1箇所あり、計2箇所の麹室が稼動している。
泡が高く沸き立っている、発酵中の酒母タンクを見せてもらう。
香りはまだ多くないが、爽やかな甘い香りが広がる「開運」らしい酒母だ。
「開運」の酒造りは、周囲の環境を配慮していることもぜひ触れておきたい。
ここは「活性汚泥槽」と呼ばれる排水浄化設備。平成12年から稼動している。
酒造りでは毎日大量の水を使用するが、同時に大量の排水も生まれることになる。
米洗いや瓶洗いなど蔵の作業で出た排水は、一度全てここを通し、上部のきれいな浄水のみが蔵の外部に排水される。
今でこそ多くの企業や家庭で目にするソーラーパネル。
しかし土井酒造場では平成15年よりいち早く太陽光発電を導入しており、自前で発電した電力を酒蔵の設備に利用している。
ちなみに酒蔵でソーラー発電を導入したのは、土井酒造場が全国初。
大きなタンクが所狭しと並ぶ仕込み部屋。
平成25年現在の「開運」の生産量は約2000石あり、県内第2位の生産量を誇るとのこと。
間もなくしぼりを迎えるもろみを確認。
小さい泡がぴちぴちと弾け、新酒特有の甘い香りが立ち昇る。
一通りの蔵見学を終えて、できたばかりの「開運」の新酒をテイスティングさせていただいた。
蔵元サイドで用意してもらったのは、本醸造から大吟醸の生原酒まで8種類。気になる酒にチェックを入れる店主吾郎。
佐野屋のコンテンツではお馴染み、蔵元との握手の写真。
今回の蔵訪問は、佐野屋が「開運」の取り扱いを始めた1998年に訪れて以来の再訪問となるが、この訪問時に握手の写真を撮っていなかったため、「開運」の蔵元紹介ページには長らく握手の写真を掲載できなかった。
15年前の「忘れ物」を撮ることができ、吾郎感激。
そしてこちらが、次世代の「開運」を担う両名。
写真左が、杜氏の榛葉 農さん。写真右が、土井社長のご子息、弥市さん。
土井社長、波瀬杜氏の後継者として技と精神を受け継ぐ2人が造る「開運」は、全国新酒鑑評会などで毎年入賞を果たしていることからも実力は折り紙付き。
現在、そして未来の「開運」は明るい。
「開運」が所在する掛川市は、静岡県でも有数の名茶の生産地。
土井酒造場へ向かう途中にも道の左右に大小さまざまな茶畑が見られた。
広大な茶畑を目にして、タクシーを止めて静岡ならでは絶景を堪能。
土井社長に昼食を御馳走していただき、「開運」の新酒で乾杯。
「自分が旨いと思えない酒は、自信を持ってお勧めできない」と語る土井社長は、ご一緒していて真に酒が好きな方だと思った。
造り手自身がさまざまな酒を知り、そのうえで納得したものを出しているからこそ、多くの人に「開運」が愛されているのだろう。