久美浜町の美しい海岸のすぐ近くに、黒壁の大きな酒蔵、木下酒造が在る。
木下酒造の11代目当主、木下善人社長。
「1度決めたら思いっきりやる性格」とのことで、酒造りに必要なものであれば、出し惜しみをせずに必要なだけ投資をする親分肌気質の人物だ。
こちらがフィリップ・ハーパー杜氏。
酒造りの世界に身を投じて既に20年。彼の造る酒とその手腕は、全国でも注目を集める名杜氏の一人。
玉川の酒造りは9月に精米が始まり、翌年3月まで行なわれる。
今回訪問した3月下旬でも、甑からは蒸気が勢い良く立ち昇っていた。
この日の蒸し米は、山廃純米の留仕込に使用する掛米とのことだが、ご覧のとおりかなりの量を人の手で掘り出す重労働。
甑から蒸し米を一掴みして、「ひねりもち」で蒸し具合を確認。
酒母室では、玉川の家付き自然酵母で発酵する酒母がピチピチとささやいている。
優しく櫂入れをして、酵母と会話をするかのようなハーパー杜氏。
この日は麹室での作業も見学させていただいた。
引き込みから丸2日かけて十分に麹菌が回った麹を、人の手で細かく切り崩して室から出す「出麹(でこうじ)」作業のワンシーン。
仕込みタンクが並ぶ貯蔵室。
木下酒造は年間約600石の日本酒を生産しているが、これは玉川の生産量の限界に近い。
この部屋に並ぶタンクも全部フタがかかっており、発酵中のもろみや酒が入っているとのこと。
蔵の中では、あちらこちらで若い蔵人が黙々と作業をこなしていた。
「ため」と呼ばれる容器の中には約20kgの氷が入っており、仕込みタンクに投入して品温を冷やす。
槽場で圧搾機を見学。
前日に純米吟醸のしぼりが行なわれたそうで、この日は粕はがしも終わり、次のしぼりの準備まで整ったところ。
蔵の販売所では、玉川の酒の他に、ハーパー杜氏の著書やグッズコーナーも設けられている。
その中に横文字の見慣れない賞状を発見。
これは2012年の全国新酒鑑評会での金賞受賞の賞状なのだが、この年の鑑評会は100回記念ということで、特別に英語バージョンも用意された。
木下酒造ホームページの外観写真に映っている、気になるソフトクリームとご対面。
玉川の酒粕を練り込んだ地酒ソフトで、実は近所でも評判を集める話題のスイーツ。
アルコール分は熱で飛ばしており、なめらかで優しい甘味がクセになりそう。
店主吾郎もこの笑顔。
そして恒例のスタッフ集合写真。
この完成度を見るに、玉川はいいチームワークではないだろうか。
酒蔵から車で少し移動したところにある精米所。
一見よくある竪型精米機なのだが、コンピュータ制御ではなく、精米師さんが時間をかけて精米を行なっているとのこと。
一通りの取材を終えて、ハーパー杜氏を囲んでの懇親会。
実は今回の蔵訪問は、久しぶりにハーパー杜氏と飲むことができる機会なので、店主は内心とても楽しみにしていた。
宴も半ばに差し掛かった頃に「踊り食い」を体験。
この地方では「いざさ」と呼ばれる小魚で(地域によっては「氷魚」や「シロウオ」とも呼ばれる)、春3月ならではの高級食の1つ。
いざさの元気の良さに驚く吾郎。
玉川の酒は、燗をあてることで飛躍的に酒質が花開く。
多少熱めよりもぬる燗程度に留めることで、酸の強さが程よくほぐれて料理の旨味を引き立ててくれる。
無濾過生原酒も温めることで、隠れた魅力を再確認させられた。
京都府北部の久美浜は、その名のとおり美しい景観を楽しむことができる自然豊かな土地。
久美浜港から海を臨むと、遠くに小天橋(しょうてんきょう)と呼ばれる景勝地を見る事ができる。
木下酒造から川を挟んだ対岸に立つ、甲山(かぶとやま)の岩壁には「人食い岩」と呼ばれる奇岩がある。
赤土の部分がちょうど口を開けた人の顔のように見えることから、この地域では山に入ってきた人を食い殺す、といった不気味な昔話が伝えられている。
木下酒造は兵庫県豊岡市に近く、蔵から車で30分ほどで「コウノトリ自然公園」に到着できる。
絶滅危惧種として保護活動が行なわれているコウノトリだが、ここでは巣を作ったり、沼地でエサを食べたりと、当たり前のように目にすることができることに驚く。
ちなみに玉川の屋根にも、コウノトリが飛来することがあるとのことです。