松本酒造代表取締役及び杜氏変更について
日出彦さんが書かれた日記は、まるで「乗っ取り」が起きたかのような内容で、日本酒ファンや業界関係者が震撼しました。
ただ、その日記には誰が次の代表(蔵元)になるのかは書かれておらず、不明な点は多数ありました。
そして、12月2日、松本酒造からFAXが届きました。
新しい代表は現在の蔵元で今回解任されることになった松本保博さんのお兄さん、前会長の息子さんの松本正治(まつもとしょうじ)さんです。
松本保博さんは4兄弟の次男。
松本正治さんは前会長である長男の息子さん、つまり、保博さんの甥、日出彦さんの従兄に当たる方です。
私はそもそもどのような経緯で次男の保博さんが蔵元に就任されていたのかは分かりません。
しかしながら今回、長男の息子、正治さんが次の蔵元に就任されます。
そして、FAXに書かれているもう1つの名前、松本庄平(まつもとしょうへい)さん。
松本庄平さんは三男で「澤屋まつもと」を立ち上げられた方です。
次男の保博さんは、「日出盛(ひのでざかり)」「桃の滴(もものしずく)」等の既存ブランドを。
三男の庄平さんは、横浜に事務所を構え、限定流通銘柄「澤屋まつもと」を立ち上げ担当されていました。
現在の「澤屋まつもと」の特約店は、庄平さんの時代に彼を通じて取引を始められた方が多いと思います。
元気に全国を飛び回る。
それが私にとっての庄平さんのイメージでした。
そして毎年、干支の動物と「澤屋まつもと」の看板を一緒に撮った写真で年賀はがきを送って下さる。
決して悪い印象の方ではありません。
保博さんの息子、日出彦さんが蔵に入られた際も、まだ「澤屋まつもと」は庄平さんが仕切られていました。
日出彦さんが杜氏を務められるようになり、強いリーダーシップで蔵人をまとめるようになると、庄平さんは、「澤屋まつもと」は次の世代に任せる。
自由にさせる。
ただし、白純米(レギュラーの澤屋まつもと純米酒)の味だけは変えないように。
と、おっしゃり、一線から退かれていました。
その時は円満に世代交代が出来ていたものと思っておりました。
その後、日出彦さんはカリスマの存在に成長。
「澤屋まつもと」の存在が、日本酒ファンの間で強い影響力を持つようになります。
そして今回の出来事…。
前会長の息子、正治さんという方の名前を私は今回のFAXで初めて知りました。
ですから、正治さんがどのように蔵と関わられたのも当然知りません。
このFAXを見た際、私は松本庄平さんの直筆と思われるサインが書かれていたことがショックでした。
このFAXだけを見ると、まるで庄平さんが正治さん側に加わってるかのように見えたからです。
私は庄平さんには色々とお世話になり、「澤屋まつもと」がまだ売れていなかった頃から共に頑張ってきた仲なので、今回の件に関わっていないことを祈りたい!
そんな思いで、12月3日に私は松本庄平さんと電話で連絡を取りました。
そこで分かったのが、今回新しく蔵元に就任される松本正治さんは東京で「松本酒造」の営業として20年近く卸の営業として働いていらしたこと。
それと、松本庄平さんも今回退職届を出し、代表権を会社に返上。
今後は蔵の経営には関わられないそうです。
FAXに署名はされていますが、経営には一切関わられないと明言されました。
どうやら健康状態が良くないようで、とても経営に関われる状態では無いそうです。
この話を庄平さんから直接聞けたことで私は胸を撫で下ろしました。
これらの情報から私は現状、以下のように考えております。
私は蔵元一族の確執の中には入って行けません。
それぞれの立場からの言い分があると思うからです。
何が正しいのは部外者には到底分かりません。
ただ、現在の「澤屋まつもと」は、現在の蔵元である保博さんと、息子で杜氏の日出彦さんの酒造理念に共感した人々によって支えられているお酒であることは間違いありません。
「澤屋まつもと」という名前が今後続いたとしても保博さんと日出彦さんが去った後に造られる「澤屋まつもと」は別物だと私は考えます。
蔵元の保博さんと杜氏の日出彦さんが造られたお酒はまだ蔵に残っています。
弊社はそれらの販売は続けて行きたいと考えております。
しかし、新体制で造られるお酒の取り扱いに関しましては現状未定です。
現在は不明な点が多く、今後どのような状況になっていくかも分かりません。
今後の動向を見守り、判断していきたいと思います。
(文:佐野 吾郎)